onsen-rider’s diary

失業するぞぅっ!

東日本大震災の時の事を話そう

「ドン!」

いきなり突き上げられた。尋常じゃない事は瞬間で理解した。

「逃げろ!外に!」部下に叫びながら事務所を飛び出した。

事業所正面玄関前に逃げ出し振り向くと鉄筋コンクリート3階建ての工場棟が揺れで雛祭りの菱餅の様に左右に斜めに形を変えた。

工場棟、倉庫、事務棟から青ざめた従業員達が次々逃げ出してきた。

揺れは強く弱く何度も襲ってきた。その度に女性社員はしゃがんで悲鳴を上げた。

避難訓練はしていたがそんなシナリオは何の役にも立たない。

揺れは収まらない中、100人強の従業員で怪我人、行方不明者がいない事だけは確認した。少しホッとしていると女性社員が近づいて報告してきた。

「水素ガス…が出しっ放しです」

「え?!水素ガス?」

彼女は実験棟で水素ガスを噴射させる試験をしていたとの事。

「上手くないな…」

俺は揺れて菱形になる建物を見上げた。

建物への再突入は決死隊になる。

「水素ガスが出っ放しだ。止めに再突入する。志願者を募る。先頭は俺だ」

2名の体躯の良い若い社員がヘルメットの顎紐を締めた。

3人の決死隊で揺れる建物に再突入した。天井は落ち、床の物は全て横倒しになっていた。

障害物を乗り越え退かし、くぐって実験棟に向かった。

強い余震の度に進行は妨げられ、俺達はしゃがんでは頭を守った。

どうにか実験棟に辿り着き水素ガスボンベの元栓を閉めた。

皆が避難している正面玄関前に戻った。部下の男が白い顔で呟く様に伝えてきた。

「携帯電話が通じません。全く使えません。東京本社に状況報告できません」

部下の顔を見たその先に社有車があった。俺は建物玄関先に吊るしてあった鍵を取って車に乗り込んでナビのテレビを点けた。

目に飛び込んできたのは炎と噴煙を上げるコンビナートの絵だった。東京を含む東日本全域が被災している事が理解できた。

集まっていた社員達の前に戻って叫んだ。
「ここからは東京からの指示はない。俺達だけで情報を集めて判断して行動する」